「すばらしき世界/ヤクザと家族」評|ヤクザ映画の新境地へ

「すばらしき世界/ヤクザと家族」評|ヤクザ映画の新境地へ

役所広司主演の映画「すばらしき世界」、綾野剛主演の「ヤクザと家族」の論評となるコラムです。

両作品ともヤクザ映画ですが、まさに新境地へ至った、といっても過言でない2作品です。

※当記事はネタバレを含みます。

「すばらしき世界」とは?

劇場公開日 2021年2月11日

監督:西川美和(「ゆれる」「永い言い訳」ほか)

あらすじ

下町で暮らす短気な性格の三上(役所広司)は、強面の外見とは裏腹に、困っている人を放っておけない優しい一面も持っていた。過去に殺人を犯し、人生のほとんどを刑務所の中で過ごしてきた彼は、何とかまっとうに生きようともがき苦しむ。そんな三上に目をつけた、テレビマンの津乃田(仲野太賀)とプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)は、彼に取り入って彼をネタにしようと考えていた。

シネマトゥデイ (外部リンク)

「ヤクザと家族 The Family」とは?

劇場公開日: 2021年1月29日

監督:藤井道人(「新聞記者」で日本アカデミー賞最優秀作品賞)

あらすじ

1999年、覚せい剤が原因で父親を亡くした山本賢治(綾野剛)は、柴咲組組長の柴咲博(舘ひろし)の危機を救ったことからヤクザの世界に足を踏み入れる。2005年、ヤクザとして名を上げていく賢治は、自分と似た境遇で育った女性と出会い、家族を守るための決断をする。それから時は流れ、2019年、14年間の刑務所暮らしを終えた賢治だったが、柴咲組は暴力団対策法の影響で激変していた。

シネマトゥデイ (外部リンク)

「すばらしき世界/ヤクザと家族」評|ヤクザ映画の新境地へ

「すばらしき世界」「ヤクザと家族」どちらも出所後のヤクザの生きにくさを描いています。

しかし異なる点は、「ヤクザと家族」が3つの時代を描いていること。1999 年、主人公はヤクザに入った。2005 年、ヤクザのメンツ、仲間を殺されたこと、常連の店の家族を守るため…さまざまな要素が重なって罪を犯す。2019年、14年の出所を終えた主人公が暴対法の影響などで苦悩していく…。

「ヤクザと家族」の方は、エンターテインメント要素があると思います。ドンパチ、グサッという流血シーンも多いです。

一方、「すばらしき世界」はたんたんと丁寧に描くためか、逆に行間を読ませる作品になっています。

だからどちらがイイ描き方というわけではありません。

「ヤクザと家族」はラストシーンが良いです。主人公は友人に殺されて亡くなってしまうのですが・・・主人公の娘が亡き父の主人公が海に落ちた場所へ花束を持ってきます。そこには、主人公が面倒をみていたチンピラがいました。彼に父はどういう人だったのか、尋ねます。チンピラは主人公の娘と気づいて「話さそうか」と語るところでエンド。

主人公の娘は、父と分かってからは会ってないんですよね。ヤクザの家族とばれて、娘は母と一緒に引っ越してしまいましたから。切ないラストシーンになっていますが、ぜひ聞いてあげてほしい、父親がどんな男だったのかを!・・・と余韻がいつまでもあるんです。

一方、「すばらしき世界」は筆者個人的に人生のベスト何本かに入ってしまうのではないか、というくらい、とてつもない作品でした。

主人公を殺したのは私かもしれない・・・

あの老人ホームで知的傷害のある職員を笑っていたのは自分かもしれない・・・

そう思うと、「すばらしき世界」のラストシーンでの主人公の当然死があまりにもつらくて苦しくて・・・

役所広司さんの演技に引き込まれてしまいました。さらに仲野太賀さんの演技も良かった。

ラストシーンで仲野太賀さんの号泣する演技は、この出来事の重さを知らされます。

就職して、もう面倒ごとに関わらないと決めて、元嫁と会うことになり、空がすばらしき世界に見えて・・・と思った矢先の死。

三上を援助しようとする面々の個性が秀逸で、あたたかくて、けれど失敗したものへの差別・批判があるのも事実。

この対比が「すばらしき世界」の良いところで、人によって解釈がわかれるところ。希望を感じるか、絶望を感じるか・・・筆者は絶望感に打ちのめされた作品でした。

私は順番的に、すばらしき世界→ヤクザと家族を見たので、すばらしき世界のほうが感動したのですが、これが逆だったらどうだっただろうかとも思います。

ともかく、2作品とも名作なのは間違いなし。

ヤクザ映画がドンパチやっていたころとは違って、時代に翻弄される悲哀を描くことになった、時代による「新境地」になっていると思います。

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